めもめも

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「技術者のための線形代数学」が出版されます

www.shoeisha.co.jp

表題の書籍が翔泳社より出版されることになりました。査読に参加いただいた読者の方を含め、編集・校正・組版・イラストデザインなどなど、本書の作成に関わっていただいたすべての方々に改めてお礼を申し上げます。

本書は先に出版された「技術者のための基礎解析学」の姉妹編です。*1 このあとに続いて出版される「技術者のための確率統計学」とあわせた3部構成となります。少しばかりカタイ、なかなか万人向けとは言い難い書籍ですので、まずは書店にて内容を見ていただくのがベストだと思いますが、「発売が待ちきれない!いますぐ予約するよ!」というみなさまのために、本書より、「はじめに」と「各章の概要」を抜粋させていただきます。

また、本書を購入いただいた読者への特典として、「Python による行列計算(入門編)」の電子小冊子も提供させていただく予定です。余因子を用いた逆行列の計算など、有名な公式を Python のコードとして実装した例を Jupyter Notebook (Google Colaboratory)でためしていただくことができます。

はじめに

 「技術者のための」と冠した数学書の第二弾がいよいよ完成しました!本書は、先に出版された『技術者のための基礎解析学』、そしてこの後に続く、『技術者のための確率統計学』との姉妹編になっており、これら3冊で基礎解析学、線形代数学、そして、確率統計学の3つの分野を学ぶことができます。「機械学習に必要な数学をもう一度しっかりと勉強したい」、そんな読者の声が本シリーズを執筆するきっかけでしたが、あらためて振り返ると、「基礎解析学・線形代数学・確率統計学」は、機械学習に深く関連する分野であると同時に、理工系の大学1、2年生が学ぶ数学の基礎、言うなれば、大学レベルの本格的な数学への入り口ともなる領域です。
 今、IT業界を中心とするエンジニアの方々からは、機械学習の理解という目的に限らず、もう一度、数学を学び直したいという声を耳にすることが増えてきました。そして、その要望に応じて、大学の教科書とは異なる趣の数学書も増えているようです。そのような中でも、大学生の頃に勉強した、あるいは、さまざまな理由で「勉強しきれなかった」数学をもう一度振り返り、じっくりと腰を落ち着けて勉強し直したいという読者の方には、本シリーズの内容がうまくはまるかもしれません。
 線形代数学がテーマの本書では、実数ベクトルに限定して、「一次変換」「行列式」「固有値問題(行列の対角化)」といった定番の内容、そして、ベクトル空間の公理にもとづいた、より一般的なベクトル空間の性質を取り扱います。
 線形代数学というと、行列式の性質や対称行列の対角化など、「結果は知っているけれど、なぜそれが成り立つかはわからない」という内容も多いかもしれません。本書では、定義にもとづいた厳密な議論とともに、できるだけ丁寧に計算を進めることで、それぞれの内容について、「確かにその通り」と納得できる説明を心がけました。お好みのノートと筆記具を用意して、本書の説明と、数式にもとづいた議論の展開をみなさんの「手と頭」で、ぜひ再現してみてください。そして、直感的な理解にとどまらない、「厳密な数学」の世界をあらためて振り返り、じっくりと味わっていただければ幸いです。あるいはまた、受験勉強から解放されて、あこがれの大学数学の教科書を開いたあのときの興奮をわずかなりとも思い出していただければ、筆者にとってこの上ない喜びです。

各章の概要

第1章 2次元実数ベクトル空間
線形代数学には、一次変換や行列計算など、その基礎となる概念の多くが、2次元の実数ベクトルで説明できるという特徴があります。ここでは、線形代数学の主要な要素となる、ベクトル空間、一次変換、行列計算と行列式、そして、固有値と固有ベクトルについて、まずは、2次元の実数ベクトルでその全体像を把握します。

第2章 一般次元の実数ベクトル空間
第1章で説明した内容をより次元の高いベクトル空間に一般化して議論します。一次変換によるベクトル空間の次元の変化が、対応する行列のランクで表わされることを理解した上で、さらに、行列計算の応用として、行列の基本変形による「掃き出し法」を用いた連立一次方程式の解法を説明します。

第3章 行列式
行列の性質を読み解く鍵となる「行列式」について、その定義を厳密に示した上で、交代性と多重線形性などの基本的な性質、あるいは、行列を構成する列ベクトルの一次独立性との関係などを説明します。さらにまた、余因子を用いて、系統的に行列式と逆行列を決定する方法を紹介します。

第4章 行列の固有値と対角化
行列の固有値と固有ベクトルを見つけることで、行列を対角行列に変換する手続きを説明します。特に、実数成分の対称行列は、この手法によって必ず対角化できることが保証されており、対称行列を含むさまざまな問題を簡単化するテクニックとなります。具体例の1つとして、2次曲面の標準形と主軸を求める方法を紹介します。

第5章 一般のベクトル空間
ここでは、ベクトル空間の公理的な取り扱いを説明します。これにより、実数ベクトル空間に限定されない一般的なベクトル空間の性質、特に、基底ベクトルの存在に関する定理が導かれます。また、基底ベクトルを用いた成分表示と一次変換の表現行列の考え方、そして、基底ベクトルの変換に伴うこれらの変換法則を説明します。

*1:書籍レビューにてご批判をいただいた経緯もあり、サブタイトルがすこーし変わっておりますが(・・;)