何の話かというと
- 作者: L D Landau,E. M. Lifshitz
- 出版社/メーカー: Butterworth-Heinemann
- 発売日: 2013/10/22
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
Landau の Statistical Physics の §6 では、密度行列の非対角成分が平衡状態では無視できる理由として、「時間依存性がないことが平衡状態の定義であり、したがって、時間依存性を持つ非対角成分が0の場合を考える」となかなかトートロジカルな説明がなされています。一応、脚注において、「系に含まれる粒子数が増加するなどして、相互作用の重要性が低下することにより非対角成分が0になる」と説明されていますが、この部分がイマイチ直感的に理解できません。というわけで、この点について、もう少し定量的な説明を試みたのが以下の内容です。
まず、他の粒子からの相互作用を1粒子のハミルトニアンに対する摂動パラメーター と考えて、1粒子のエネルギー固有値が に依存した関数になると考えます。
()
したがって、1粒子のエネルギー固有状態は、時間依存を含めて、
となります。(厳密には、 も に依存していますが、この点については後述します。)
この時、一般の重ね合わせ状態
について、Pure state としての密度行列を計算すると次が得られます。
---- (1)
一般に、 が大きい古典極限では非対角成分は時間変動が大きく、マクロな時間レベルで平均して0になると考えられます。ただし、これは、統計力学とは無関係の古典極限の話です。ここでは、非古典的な量子状態に対する統計的性質を考える必要があります。
今、(粒子が多数存在するなどの理由で)粒子間の相互作用が乱雑で、摂動パラメーター自体が時間に対して激しく変動すると仮定すると、 という時間依存により、 がそれほど大きくない領域においても、位相 は激しく変動するため、古典極限と同様の近似として、非対角成分を0とみなすことができます。一般に、マクロな時間内に 、すなわち、 程度の変動があれば十分です。
この話を一般化すると、系に対するランダムな摂動(ノイズ)がある場合は、非古典領域においても密度行列の非対角成分を0とする、(平衡系の)統計力学的な取り扱いが正当化されることになります。
なお、(1) でマクロな時間平均を取ると、上述の理由で非対角成分は0になりますが、同時に、 の 依存性についても平均が行われます。これは、他の粒子からの影響を平均場で近似して、平均場のもとに得られたエネルギー固有状態 に置き換える操作と理解できます。平均場が0になる場合(つまり、摂動項の平均が0になる場合)は、近似として、もとのハミルトニアンの固有状態をそのまま利用することができます。