※ 2017/09/27 追記
本シリーズの内容は、筆者の学習ノートレベルのもので、個々の証明には不正確な部分が多々あります。これらをより正確なものに加筆・修正して大幅に説明を書き加えたものを同人誌として、技術書典3で配布する予定です。
電子版をこちらで販売しています。
根の1つを付与した拡大
定理5.1より、任意の 次の既約多項式 は、 上の分解体 において、
と分解される。また、補題5.2より重根は存在しない。
この時、すべての根 の中から1つ を取り出して、これだけを付与した拡大体 を考える。この時、定理5.2(1)より、 がガロア拡大であることは次と同値になる。
・ の元はすべて に含まれる。
また、 に注意すると、
(∵ 補題5.1)
(∵ 定理1.2)
となるが、 がガロア拡大の場合は、定理2.3より、 となるので、上記より、 が得られる。つまり、 の元は 個に限定される。そして、次の写像は、すべて の相違なる元を定義することが確認できるので、これらが を与えることになる。
()
また、これらを 以外の根に作用させた場合を考えると、 より、これは根から根への置換を与えることがわかる。
つまり、 がガロア拡大の場合、 は、すべての根に対する置換群の部分群を形成する。これを補題として記載しておく。
補題6.1
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既約多項式 は、 上の分解体 において、根 を持つとする。この時、 として、 がガロア拡大の場合、 は、 に対する置換群の部分群を形成する。
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べき根拡大と可解群の関係
ここで、多項式 の分解体を考えてみる。これは既約ではないので、補題6.1は適用できないが、原始 乗根 を用いると次の同型が成り立つ。
ここに、 は、 と互いに素な を集めた集合に対して、 上での積を入れて群にしたものである。(これが群になることは、「2014 年度 代数学特論」の講義ノート第3章「3.2.2 乗法を演算とする群」などを参照。)
補題6.2
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多項式 の分解体を とする時、 となる が存在して、 はアーベル群 の部分群に同型となる。
ここに、 は、 と互いに素な を集めた集合に対して、 上での積を入れて群にしたものである。
また、 は、1の原始 乗根になっており、、および、 を満たす。
(証明)
補題5.2より、 は重根を持たないことに注意して、 個の相違なる根の集合を とすると、これは、 の積に関して群となる。体に含まれる有限部分群は、巡回群となることが知られており、 となる が存在する。この時、 の元はすべて から生成されるので、 は の分解体であり、 となる。
なお、任意の について、 となることから、より一般には、()となる(*1)。
ここで、 の 上の最小多項式を とすると、 の根は に含まれるが、()以外は、 の根とは成り得ない。なぜなら、それ以外の元 は、 となる が存在するので(*2)、 と仮定すると が成立するが、これは、 に矛盾する。
そこで、 の相違なる根のすべて に対して、写像の集合 を で定義すると、これらは、 の部分集合となる。( と は同一の最小多項式を持つので、 と は同じ剰余体 と同型となる事に注意する。)
さらに、 は 上の分解体なので、定理5.2より、 はガロア拡大であり、 となる。上記で定義した写像 は、 の根の個数、つまり、 と同数だけあるので、 が成立する。
最後に、次の写像を定義すると、これは、単射準同型であることがわかる。
:
これで、 は の部分群に同型であることが示された。
(*1) と が互いに素の時、 が成立する。したがって、 となるので、 はすべて相違なる元となる。
(*2) と は互いに素ではないので、最大公約数を として、()となる。したがって、 より、
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この補題を基にして、べき根拡大と可解群の関係が得られる。多項式の解がべき根を用いて表現できるかどうかを判定する、ガロア理論の根幹の1つとなる。
定理6.1
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多項式 の分解体を とする時、 は可解群となる。このような拡大をべき根拡大とよぶ。
また、 を満たす を用いて、 が成立する。ここに、 は1の原始 乗根であり、 が の相違なる 個の根となる。
(証明)
補題6.2の を用いて、体の拡大の列 を構成した上で、次の自己同型群の列が可解群の条件を満たすことを証明する。
まず、右側のペアによる剰余群 、すなわち、 がアーベル群であることを示す。
は の分解体なので、 を満たす が存在する。この時、 は、 個の相違なる元で、すべて の根になっている。つまり、 は の分解体であり、分解体の一意性(定理5.3)より、 とおける。したがって、 の元は、 に対する作用のみで定義される。この時、任意の が可換になることが、次の議論からわかる。
まず、 より、。したがって、 より、 となる。したがって、
よって、。この右辺は と について対称になっているので、 が成立する。
続いて、左側のペアによる剰余群 がアーベル群になることを示す。
体の拡大の列 において、 は、 の分解体なので、定理5.2より、 はガロア拡大である。したがって、定理4.1(1)より、 は の正規部分群であり、上記の剰余群が考えられる。さらに、定理4.2より、次の同型が成立する。
補題6.2より、 はアーベル群なので、これで定理が証明された。
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文献によっては、 の根の1つのみを加えた拡大をべき根拡大と定義している場合もあるが、ここではすべての根を加えた分解体として定義している点に注意。これにより、以降の各種定理の証明が少し簡単になる。(根の1つのみを加えた定義の場合は、証明の中で、すべての根を加えた体まで拡張して議論する必要がある。)
例
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定理6.1で存在が保証される は、一意ではない点に注意する。たとえば、 の根は、 を1の原始3乗根として、 であり、 とすると、分解体は、 となる。一方、 として、 としても結果は同じである。
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