めもめも

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ガロア理論のメモ(その5):ガロア拡大と多項式の分解

※ 2017/09/27 追記

本シリーズの内容は、筆者の学習ノートレベルのもので、個々の証明には不正確な部分が多々あります。これらをより正確なものに加筆・修正して大幅に説明を書き加えたものを同人誌として、技術書典3で配布する予定です。

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多項式の根による拡大

体の拡大 E/F において、F の元を係数とする X の多項式全体を F[X] と表す。また、既約多項式 p(X) \in F[X] に対して、p(\alpha) = 0 を満たす \alpha \in E を「p(X)E における根」と呼ぶ。この時、既約多項式 p(X) の最高次数の係数を1としたものが、\alpha の最小多項式 {\rm Irr}(\alpha,F) であり、定理1.2より、F\alpha を付与した拡大体 F(\alpha) を構成することができた。

いま、ある最小多項式 {\rm Irr}(\alpha,F)E において、\alpha 以外の根を持っていると仮定して、すべての根を \{\alpha_1,\cdots,\alpha_r\}\alpha=\alpha_1)とする。この時、{\rm Hom}_F\left(F(\alpha), E\right) の元は、すべての根 \{\alpha_1,\cdots,\alpha_r\} と1対1に対応する。

補題5.1
――――――――――
体の拡大 E/F において、最小多項式 {\rm Irr}(\alpha,F)E において、\alpha 以外の根を持っていると仮定して、すべての根を \{\alpha_1,\cdots,\alpha_r\}\alpha=\alpha_1)とする。この時、次は全単射の写像を与える。

 {\rm Hom}_F\left(F(\alpha), E\right) \rightarrow \{\alpha_1,\cdots,\alpha_r\}\sigma \mapsto \sigma(\alpha)

(証明)
最小多項式を p(X) と表記する。任意の \sigma \in {\rm Hom}_F\left(F(\alpha), E\right) に対して、\sigma(\alpha) \in E は、次の計算により p(X) の根となる。(最初と最後の等号は、\sigma が準同型写像であることによる。)したがって、表題の写像が定義できることがわかる。

 p(\sigma(\alpha)) = \sigma(p(\alpha)) = \sigma(0) = 0

また、定理1.2より、F(\alpha) の任意の元は、既約多項式の次数を n として、x = \sum_{i=0}^{n-1} a_i\alpha^ia,b\in F)と書けることに注意すると、\sigmaF の元を固定するので、\sigma(x) = \sum_{i=0}^{n-1} a_i\sigma(\alpha)^i となる。したがって、\sigma_1,\sigma_2 \in {\rm Hom}_F\left(F(\alpha), E\right) について、\sigma_1(\alpha)=\sigma_2(\alpha) が成り立つ場合、\sigma_1(x)=\sigma_2(x) となる。つまり、\sigma_1 = \sigma_2 であり、表題の写像は単射である。

一方、任意の \alpha_k に対して、写像 \tau\tau(x) = \sum_{i=0}^{n-1} a_i\alpha_k^i で定義すると、\tau は準同型であり、{\rm Hom}_F\left(F(\alpha), E\right) の元であることが確認できる。この時、\tau(\alpha) = \alpha_k となるので、表題の写像は全射であることがわかる。
――――――――――

ここで、定理1.2で与えた拡大体 F(\alpha) の定義を少し見なおしておく。そこでは、下記の定義を与えていた。

F の拡大体 E において、\alpha \in E を代数的な元として、{\rm Irr}(\alpha, F) の次数を n とする。この時、

 F[\alpha] = \{a_0+a_1\alpha+\cdots+a_{n-1}\alpha^{n-1}\mid a_0,\cdots,a_{n-1}\in F\}

は、F の拡大体となる。これを F(\alpha) と表記する。

ここで、F[\alpha] の元の積を計算する際は、p(X) = {\rm Irr}(\alpha, F) として、p(\alpha)=0 の条件から、n 次以上の項は n-1 次以下に書き直すという条件をつけていた。これは、次数を制限しない多項式全体の集合 F[X] に対して、p(X) で割った余りが等しい物を同一視するという同値類を入れた剰余体 F[X]/p(X) と同型になる。具体的には、次の写像が同型写像を与える。

 F[X]/p(X)\rightarrow F(\alpha)f(X) \mapsto f(\alpha)f(X) は同値類の任意の1つ)

この意味で、任意の \beta\in F(\alpha) は、多項式の類 p(X)F[X]+r(X)r(X)n-1 次以下で r(\alpha)=\beta を満たす)と同一視することができる。

また、一般に、体 F に新たな元 \alpha_1,\cdots,\alpha_n を順番に付け加えて得られる体を F(\alpha_1, \cdots, \alpha_n) と表記する。

この理解の下に、次の定理を示す。

定理5.1
――――――――――
F 上の任意の多項式 f(X)\in f[X] に対して、これを次のように因数分解可能にするような拡大体 E を構成することができる。

 f(X) = a(X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_n) (a\in F, \alpha_i\in E

特に上記の根のみを用いて得られる拡大体 F(\alpha_1,\cdots,\alpha_n) を多項式 f(X) の分解体と呼ぶ。

(証明)
f(x)F 上で既約でない場合は、f(X)=g(X)h(X)\cdots と既約多項式に分解して、それぞれについて定理が証明できればよい。(それぞれで得られた根をすべて付与した拡大体を構成する。)

f(X) が規約な場合、最高次数の係数を1としたものを p(X) として、多項式の剰余体 F[X]/p(X) を形式的に構成することができる。これが体になることは、定理1.2と同様に証明することができる。これは、体 F に新しい記号 X を加えて、形式的に p(X)=0 という条件を加えたものに等しい。そこで、X の代わりに文字 \alpha_1 を用いて、体 F に記号 \alpha_1 を加えて、形式的に p(\alpha_1)=0 という条件を加えた体 F(\alpha_1) を構成することができる。この体の下では、f(\alpha_1)=0 となるので、一般的な剰余定理より、

 f(X)=a(X-\alpha_1)g(X) (a\in F, g(X)\in F(\alpha_1)[X])(g(X) は最高次数の係数が1になるように、a を選んでおく。)

と因数分解できる。続いて、g(X)\in F(\alpha_1)[X] に同様の議論を適用すると、新たな体 F(\alpha_1,\alpha_2) を構成して、

 g(X) = (X-\alpha_2)h(X) (h(X)\in F(\alpha_1,\alpha_2)[X]

と因数分解できる。以下、同様の議論を繰り返せばよい。
――――――――――

ここでは、多項式を1次式の積に分解する拡大体の中でも最小のものを「分解体」としている。これは、文献によっては「最小分解体」と呼ばれることもある。


――――――――――
f(X)=X^3-2\in {\mathbf Q}[X] に定理5.2の証明の流れを適用してみる。まず、形式的に記号 \alpha を加えた体 {\mathbf Q}(\alpha) を考えて、

 f(\alpha)=\alpha^3-2=0 ――― (1)

という条件を付けておく。この時、体 {\mathbf Q}(\alpha) の上で f(X) は次のように因数分解される。(直接の計算で確認。)

 f(X) = (X-\alpha)g(X),\,\,g(X)=X^2+\frac{2}{\alpha^2}X+\frac{2}{\alpha}

そこでさらに、{\mathbf Q}(\alpha) に対して、形式的に記号 \beta を加えた体 {\mathbf Q}(\alpha,\beta) を考えて、

 g(\beta) = \beta^2+\frac{2}{\alpha^2}\beta+\frac{2}{\alpha}=0 ――― (2)

という条件を付ける。この時、体 {\mathbf Q}(\alpha,\beta) の上で g(X) は次のように因数分解される。(直接の計算で確認。)

 g(X) = (X-\beta)(X-\frac{\beta^2}{\alpha}) = (X-\beta)(X+\beta+\frac{2}{\alpha^2})

したがって、f(X)=X^3-2 は次のように因数分解される。

 f(X)=X^3-2=(X-\alpha)(X-\beta)(X+\beta+\frac{2}{\alpha^2})

これは、複素数体の範囲で考えた際に、\alpha=\sqrt[3]{2},\,\,\beta=\omega\sqrt[3]{2},\,\,\frac{\beta^2}{\alpha}=\omega^2\sqrt[3]{2}\omega は1の複素3乗根)とした場合の計算に相当する。
――――――――――

このようにして、任意の多項式 f(X) \in F[X] について、その分解体を構成できることがわかった。つまり、任意の n 次多項式について、かならず n 個の解を与える拡大体が存在することになる。F={\mathbf Q} の場合は、代数学の基本定理により、複素数体 {\mathbf C} がそのような体であることが知られており、上記の例で構成した拡大体は、複素数体の部分体 {\mathbf Q}(\sqrt[3]{2},\omega) \subset {\mathbf C} に形式的に一致している。それでは、あらゆる多項式 f(X) \in {\mathbf Q}[X] について、上記の方法で構成した拡大体は、複素数体の部分体とみなせるのであろうか?(複素数体とは異なる種類の体に拡張されることはないのだろうか?)――― 実際には、「代数的閉包の一意性」により、上記の手法で拡大した体 {\mathbf Q}' は、{\rm Aut}({\mathbf Q}'/{\mathbf Q}) の自由度を除いて、複素数体の部分体に同型となることが保証されている。(複数の分解体が同型になることは、後ほど証明する。)

既約多項式は重根を持たないことの証明

特に、規約多項式は、分解体において重根を持たないことが証明できる。

補題5.2
――――――――――
F 上の規約多項式 f(X) \in F[X] はどのような拡大体 E においても重根は持たない。(特に分解体において、重根を持つことはない。)

(証明)
f(X) の根の1つを \alpha \in E として、p(X)={\rm Irr}(\alpha, F) とおく。f(X)p(X) で割り算して、f(X)=p(X)g(X)+r(X)g(X),r(X)\in F[X])とすると、r(\alpha)=0 となるが、p(X) が最小多項式であることから、r(X) は恒等的に0になる。さらに、f(X) は規約なので、結局、f(X)=ap(X)a\in F)となる。

この時、\alpha が重根だとすると、f(\alpha) = f'(\alpha) = 0 となるので、同様の議論により、

 f'(X)= p(X)h(X) = \frac{f(X)}{a}h(X)h(X)\in F[X]

となる。これは、f'(X) の次数を考えると矛盾である。
――――――――――

ガロア拡大と分解体の同値性

次に、分解体の特別な性質として、その中間体についてなりたつ補題を示す。

補題5.3
――――――――――
多項式 f(X) \in F[X]F 上の分解体 E について、任意の中間体 E\supset M\supset F について、次の写像は全射を与える。

 {\rm Aut}(E/F) \rightarrow {\rm Hom}_F(M,E)\sigma \mapsto \sigma|_M

つまり、{\rm Hom}_F(M,E) の任意の元は、{\rm Aut}(E/F) の定義域を M に制限したものとして得られる。

(証明)
E=F(\alpha_1,\cdots,\alpha_n) とする。\{\alpha_1,\cdots,\alpha_n\} がすべて M に含まれていれば、それは E=M を意味するので、補題の内容は自明となる。いま、M に含まれていないものを \{\alpha_1,\cdots,\alpha_r\} とする。この時、M_0=MM_k = M(\alpha_1,\cdots,\alpha_k)k=1,\cdots,r)として、任意の \tau \in {\rm Hom}_F(M,E) が与えられた際に、一連の写像を次のように帰納的に定義する。

 \tau_0 \in {\rm Hom}_F(M_0,E)\tau_0(x)=\tau(x)\,\,(x\in M_0)

 \tau_1 \in {\rm Hom}_F(M_1,E)\tau_1(\alpha_1)=\alpha_1',\,\,\tau_1(x)=\tau_0(x)\,\,(x\in M_0)

 \tau_2 \in {\rm Hom}_F(M_2,E)\tau_2(\alpha_2)=\alpha_2',\,\,\tau_2(x)=\tau_1(x)\,\,(x\in M_1)
  \vdots
 \tau_k \in {\rm Hom}_F(M_k,E)\tau_k(\alpha_k)=\alpha_k',\,\,\tau_k(x)=\tau_{k-1}(x)\,\,(x\in M_{k-1})
  \vdots
 \tau_r \in {\rm Hom}_F(M_r,E)\tau_r(\alpha_r)=\alpha_r',\,\,\tau_r(x)=\tau_{r-1}(x)\,\,(x\in M_{r-1})

ここで、\alpha_1',\cdots,\alpha_r' は、それぞれ、\{\alpha_1,\cdots,\alpha_n\} から1つを選択したもので、この選択をうまく行うと、上記の写像が準同型写像になることを k0\le k \le r)についての数学的帰納法で証明する。k=0 の時は自明なので、k-1 まで成立していると仮定して、kk \ge 1)の場合を考える。

まず、多項式 g(X) \in M_{k-1}[X] に対してすべての係数に \tau_{k-1} を作用したものを \tau_{k-1}\left\{g(X)\right\} と表記すると、\tau_{k-1} が準同型であるという仮定から、次の関係が成立する。

 f(X) \in F[X]\tau_{k-1}\left\{f(X)\right\}=f(X)

 g(X),h(X) \in M_{k-1}[X]\tau_{k-1}\left\{g(X)h(X)\right\}=\tau_{k-1}\left\{g(X)\right\}\tau_{k-1}\left\{h(X)\right\}

以降では、\tau_{k-1}\left\{g(X)\right\}g^{\tau_{k-1}}(X) と表記する。

ここで、\alpha_kM_{k-1} 上の最小多項式を p(X) \in M_{k-1}[X] とする。f(X)\alpha_k を根に持つので、p(X) の次数は、f(X) の次数以下であり、次のように割り算ができる。

 f(X) = p(X)q(X)+r(X)

これに X=\alpha_k を代入すると r(\alpha_k) = 0 が得られるが、p(X) が最小多項式(\alpha_k を根に持つ最小次数の多項式)という条件から、r(X) は恒等的に0になる。つまり、

 f(X) = p(X)q(X)

この両辺に \tau_{k-1} を作用させると、

 f(X) = p^{\tau_{k-1}}(X)q^{\tau_{k-1}}(X)

つまり、p^{\tau_{k-1}}(X) は、f(X) の因数を与えており、p^{\tau_{k-1}}(\alpha_k')=0 となる \alpha_k' が存在する。これは、p^{\tau_{k-1}}(X) \in \tau_{k-1}(M_{k-1})[X]\alpha_k' の体 \tau_{k-1}(M_{k-1}) 上の最小多項式であることを意味する。(p^{\tau_{k-1}}(X) が既約であることは、次の議論による。体の準同型は単射であることが保証されるので、p^{\tau_{k-1}}(X) が因数分解される場合、\tau_{k-1} による逆像をとって、p(X) も因数分解されることになる。)

したがって、剰余体 {\tau_{k-1}}(M_{k-1})[X]/p^{\tau_{k-1}}(X) が定義できて、これは、体 {\tau_{k-1}}(M_{k-1})(\alpha_k') と同一視することができる。

これと同様に、体 M_k = M_{k-1}(\alpha_k) は、剰余体 M_{k-1}[X]/p(X) と同一視できるので、M_{k-1}(\alpha_k) から \tau_{k-1}(M_{k-1})(\alpha_k')\subseteq E への写像を剰余体間の写像として、次のように定義できる。

 \tau_k : \left(\sum_ia_iX^i\right)/p(X) \mapsto \left(\sum_i\tau_{k-1}(a_i)X^i\right)/p^{\tau_{k-1}}(X)

\tau_{k-1} が準同型であるから、この写像も準同型になることが確認できる。(同値類の条件が準同型に写像されている点に注意。)そして、この写像は、M_{k-1}(\alpha_k)\tau_k(M_{k-1})(\alpha_k') の元で表現すると、冒頭で定義した \tau_k に一致することがわかる。

よって、数学的帰納法により、下記の準同型写像が定義できることがわかる。

 \tau_r \in {\rm Hom}_F(M_r,E)\tau_r(\alpha_r)=\alpha_r',\,\,\tau_r(x)=\tau_{r-1}(x)\,\,(x\in M_{r-1})

ここで、M_r=E より、{\rm Hom}_F(M_r,E)={\rm Aut}(E/F) である(体の準同型は必ず単射になる)ことに注意すると、\tau_r \in {\rm Aut}(E/F) であり、その定義より、\tau_r|_M=\tau が成立することがわかる。これで表題の補題が証明された。
――――――――――

補題5.1〜補題5.3を用いて、ガロア拡大は、分解体の必要十分条件であることが示される。

定理5.2
――――――――――
有限次元拡大 E/F がガロア拡大であることは、次のそれぞれの条件と同値である。

(1) 規約多項式 p(X) \in F[X]E に根を持つ場合、p(X) は、E 上ですべての根に対する一次式の積に分解される。つまり、Ep(X)F 上の分解体である。

(2) E はある多項式 f(X) \in F[X]E 上の根 \{\alpha_1,\cdots,\alpha_n\} を用いて、E=F(\alpha_1,\cdots,\alpha_n) となる。つまり、Ef(X)F 上の分解体である。

(証明)
・ガロア拡大⇒(1)
p(X) の相違なる根を \{\alpha_1,\cdots,\alpha_r\} として、次の多項式を考える。

 q(X) = \prod_{i=1}^r(X-\alpha_i) \in F(\alpha_1,\cdots,\alpha_r)[X]

となる。これを展開した係数は、\{\alpha_1,\cdots,\alpha_r\} の対称な組み合わせであり、これらの置換に対して不変である。

一方、任意の \sigma\in G={\rm Aut}(E/F) に対して、p\left(\sigma(\alpha_i)\right)=\sigma\left(p(\alpha_i)\right)=0 より、\sigma(\alpha_i)\{\alpha_1,\cdots,\alpha_r\} のどれかに一致する。\sigma が全単射であることを考えると、これは、\sigma\{\alpha_1,\cdots,\alpha_r\} の置換を引き起こすことになる。つまり、上記の展開係数は、G で不変であり、E^G=F の元であることがわかる。つまり、q(X) \in F[X] となる。

したがって、F[X] の範囲で p(X)=q(X)g(X)+r(X) と割り算した場合、r(X)r 個(\{\alpha_1,\cdots,\alpha_r\})の根を持つことになるが、q(X) の次数が r なので、r(X) は恒等的に0になる。さらに、p(X) が規約であることから、p(X)=cq(X)c\in F)が成立する。

・(1)⇒(2)
E/F は有限次元拡大なので、有限個の元 \{\alpha_1,\cdots,\alpha_r\} を用いて、E=F(\alpha_1,\cdots,\alpha_r) と書ける(*)。この時、定理1.1より、任意の \alpha_i は最小多項式 p_i(X)={\rm Irr}(\alpha_i,F) を持つ。(1)の仮定より、これは、重根を持たず、E 上で一次式の積に分解される。そこで、f(X)=\prod_{i=1}^rp_i(X) という多項式を考えると、E=F(\alpha_1,\cdots,\alpha_r) は、f(X) の分解体となっている。

(*)の証明
\alpha_1 \in E\alpha_1\notin F)を用いて、E_1 = F(\alpha_1) とした時に、E_1 \subsetneq E だとした場合、\alpha_2 \in E\alpha_2\notin E_1)を取ると、\alpha_1\alpha_2 は(F 上のベクトル空間として)一次独立である。そこで、E_2 = F(\alpha_1,\alpha_2) として、さらに E_2 \subsetneq E だとした場合、同様に一次独立な元 \alpha_3 が取れる。これを繰り返した際に、有限回で E_n = E とならなかった場合、無限個の一次独立な元が存在することになり、有限次元拡大という前提に矛盾する。

・(2)⇒ガロア拡大
E^{\rm Aut(E/F)}=F を示す。(定理2.4を参照)

一般には、E^{\rm Aut(E/F)}\supseteq F であることに注意して、任意の \alpha\in E^{\rm Aut(E/F)} に対して、中間体 F(\alpha) を考えると、E^{\rm Aut(E/F)}\supseteq F(\alpha)\supseteq F となる。したがって、任意の \sigma\in {\rm Aut}(E/F) は、定義域を F(\alpha) に制限すると恒等写像になる。よって、補題5.3より、{\rm Hom}_F\left(F(\alpha),E\right) は恒等写像のみを含む。

一方、補題5.1より、\alpha の最小多項式 p(X) \in F[X] の根全体を \{\alpha_1,\cdots,\alpha_r\} として、{\rm Hom}_F\left(F(\alpha),E\right)\{\alpha_1,\cdots,\alpha_r\} は集合として1対1になる。(系1.1より、\alpha は必ず最小多項式を持つ事に注意。)

したがって、p(X) の根は \alpha のみで、これは p(X) = X-\alpha を意味する。(補題5.2より、p(X) は重根を持つことはない。)これより、\alpha\in F でなければならず、E^{\rm Aut(E/F)}=F が示された。
――――――――――

分解体の一意性

最後に分解体の一意性について示しておく。次の証明は、補題5.3の証明とほぼ同じ流れになっている。

定理5.3
――――――――――
2種類の拡大 E/F および E'/F があり、どちらも n 次多項式 f(X) \in F[X] の分解体になっている、つまり、次の関係が成立すると仮定する。

 E=F(\alpha_1,\cdots,\alpha_n),\,f(X)=a\prod_{i=1}^n(X-\alpha_i)

 E'=F(\beta_1,\cdots,\beta_n),\,f(X)=a\prod_{i=1}^n(X-\beta_i)

この時、E\rightarrow E' の同型写像で、\{\alpha_1,\cdots,\alpha_n\}\{\beta_1,\cdots,\beta_n\} に置換するものが構成できる。

(証明)
F_0 = FF_k = F(\alpha_1,\cdots,\alpha_l)k=1,\cdots,n)として、一連の写像を次のように帰納的に定義する。

 \tau_0 \in {\rm Hom}(F_0,E')\tau_0(x) = x\,\,(x\in F_0)

 \tau_1 \in {\rm Hom}(F_1,E')\tau_1(\alpha_1)=\beta_{1'},\,\,\tau_1(x) = \tau_0(x)\,\,(x\in F_0)

 \tau_2 \in {\rm Hom}(F_2,E')\tau_2(\alpha_2)=\beta_{2'},\,\,\tau_2(x) = \tau_1(x)\,\,(x\in F_1)
  \vdots
 \tau_k \in {\rm Hom}(F_k,E')\tau_k(\alpha_k)=\beta_{k'},\,\,\tau_k(x) = \tau_{k-1}(x)\,\,(x\in F_{k-1})
  \vdots
 \tau_n \in {\rm Hom}(F_n,E')\tau_n(\alpha_n)=\beta_{n'},\,\,\tau_n(x) = \tau_{n-1}(x)\,\,(x\in F_{n-1})

ここで、\beta_{1'},\cdots,\beta_{n'} は、それぞれ、\{\beta_1,\cdots,\beta_n\} から1つを選択したもので、この選択をうまく行うことで、上記の写像が準同型写像になることを k0\le k\le n)についての数学的帰納法で証明する。k=0 は自明なので、k-1 まで成立していると仮定して、kk\ge 1)の場合を考える。

\alpha_kF_{k-1} 上の最小多項式を p(X)\in F_{k-1}[X] とすると、次が成立する。

 f(X) = p(X)q(X)

この両辺に \tau_{k-1} を作用させると( \tau_{k-1} が準同型という仮定より)次が得られる。

 f(X) = p^{\tau_{k-1}}(X)q^{\tau_{k-1}}(X)

したがって、p^{\tau_{k-1}}(X) \in E'[X] は、分解体 E' 上で f(X) の因数になっており、p^{\tau_{k-1}}(\beta_{k'}) となる \beta_{k'} が存在する。つまり、p^{\tau_{k-1}}(X) \in \tau_{k-1}(F_{k-1})[X] は、\beta_{k'} の体 \tau_{k-1}(F_{k-1}) 上での最小多項式である。

これにより、F_{k-1}(\alpha_k) から \tau_{k-1}(F_{k-1})(\beta_{k'}) への準同型写像 \tau_k を剰余体間の写像として、次のように定義できる。

 \tau_k\,:\,\left(\sum_ia_iX^i\right)/p(X) \mapsto \left(\sum_i\tau_{k-1}(a_i)X^i\right)/p^{\tau_{k-1}}(X)
 
この写像は、F_{k-1}(\alpha_k)\tau_{k-1}(F_{k-1})(\beta_{k'}) の元で表現すると、冒頭で定義した \tau_k に一致する。したがって、数学的帰納法により、下記の準同型写像が定義できることがわかる。(F_n=E に注意)

 \tau_n \in {\rm Hom}(E,E')\tau_n(\alpha_n)=\beta_{n'},\,\,\tau_n(x) = \tau_{n-1}(x)\,\,(x\in F_{n-1})

この時、冒頭の定義に基づいて計算すると、\tau_n(\alpha_k) = \beta_{k'} となることがわかるが、体の準同型写像は単射であることから、\tau_n は、\{\alpha_1,\cdots,\alpha_n\} から \{\beta_1,\cdots,\beta_n\} への置換になっており、E から E' への全射を与える。つまり、\tau_n は同型写像となる。
――――――――――

したがって、n 次多項式 f(X) \in F[X] について、f(X)=a\prod_{i=1}^n(X-\alpha_i) と分解できる体 E が明示的に構成できれば、これを一般的な分解体とみなしてかまわない。