めもめも

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捩率が0でない「平面」の例

何の話かというと

みんな大好きRiemann幾何学では、計量を保存する曲率のある空間(平面)を取り扱いますが、この際、(Riemann多様体の前提として)捩率は必ず0になります。

このような捩率0で曲率だけを持つ平面(二次元多様体)の例は、球面などを容易に想像することができます。接ベクトルを閉曲線にそって平行移動したときに元にもどらないという話も、経線方向と赤道方向の移動を組み合わせて、簡単に確認することができます。

その一方で、より一般的な捩率を持つ「平面(二次元多様体)」は、意外と簡単な例が思いつかないのではないでしょうか? よくあるのは、接ベクトルがプロペラのように回転しながら移動する下記のような例ですが、これは、三次元多様体であって、決して平面ではありません。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e5/Torsion_along_a_geodesic.svg/877px-Torsion_along_a_geodesic.svg.png

はたして、捩率を持つ平面にはどのような構造があるのでしょうか?!

というわけで、捩率を持つわかりやすい平面の例を手作業で作ってみました。

事前準備

なるべくシンプルな例にするために、局所座標系を1つ固定して、この座標系において計量テンソルは一定 g = \begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 & 1\end{pmatrix} とします。

この時、接続 \nabla が計量的である(計量を保存する)という次の条件から、接続係数 \Gamma_{ij}^{\,\,\,k} の形がかなり限定されます。

 Xg(Y,Z) = g(\nabla_XY,Z)+g(Y,\nabla_XZ)

まず、上記を成分表記すると次になります。

 \partial_k g_{ij} = \Gamma_{ki,j}+\Gamma_{kj,i}

今の場合、左辺は0になることから、これを全成分について書き下すと次が得られます。

 \Gamma_{00,0} + \Gamma_{00,0} = 0
 \Gamma_{01,0} + \Gamma_{00,1} = 0
 \Gamma_{10,0} + \Gamma_{10,0} = 0
 \Gamma_{11,0} + \Gamma_{10,1} = 0
 \Gamma_{00,1} + \Gamma_{01,0} = 0
 \Gamma_{01,1} + \Gamma_{01,1} = 0
 \Gamma_{10,1} + \Gamma_{11,0} = 0
 \Gamma_{11,1} + \Gamma_{11,1} = 0

これを整理すると次になります。

 \Gamma_{00,0}  = 0
 \Gamma_{10,0}  = 0
 \Gamma_{01,1}  = 0
 \Gamma_{11,1}  = 0
 \Gamma_{01,0} = - \Gamma_{00,1}
 \Gamma_{11,0} = - \Gamma_{10,1}

つまり、接続係数は、本質的に2つのパラメータで決定されることになります。

ちなみに、この上に、さらに捩率0という条件 \Gamma_{ij,k} = \Gamma_{ji,k} を課すと接続係数はすべて0になって、平坦なユークリッド平面になってしまいます。今の場合、捩率0という条件を課す必要はありませんので、一般に、接続係数は次のように決まります。

 \Gamma^0 = \begin{pmatrix}0 & p \\ 0 & q\end{pmatrix},\,\,\,\,\Gamma^1 = \begin{pmatrix}-p & 0 \\ -q & 0\end{pmatrix}

捩率テンソル T_{ij}^{\,\,\,k} = \Gamma_{ij}^{\,\,\,k} - \Gamma_{ji}^{\,\,\,k} で表記すると次になります。

 T^0 = \begin{pmatrix}0 & p \\ -p & 0\end{pmatrix},\,\,\,\,T^1 = \begin{pmatrix}0 & q \\ -q & 0\end{pmatrix}

この平面の性質

それでは、上記の接続係数を持つ平面はどのように「捩れて」いるのか、接ベクトルを平行移動して確かめてみましょう。

まず、原点における座標軸方向の2本の接ベクトル Z=\partial_0,\,W=\partial_1 を0軸方向に平行移動した際の成分の変化を次のように表します。

 \partial_0 \rightarrow Z = z^0(x_0,0)\partial_0 + z^1(x_0, 0)\partial_1

 \partial_1  \rightarrow W = w^0(x_0,0)\partial_0 + w^1(x_0, 0)\partial_1

これを0軸方向の平行移動の条件 \nabla_0 Z = 0,\,\nabla_0 W = 0 に代入します。まず、Z から計算すると・・・

 0 = \nabla_0 Z = (\partial_0 Z^l + Z^m\Gamma_{0m}^{\,\,\,l})\partial_l =(\partial_0 Z^l + Z^0\Gamma_{00}^{\,\,\,l}+Z^1\Gamma_{01}^{\,\,\,l})\partial_l
  =(\partial_0z^0+pz_1)\partial_0 + (\partial_0z^1-pz^0)\partial_1

したがって、次の連立偏微分方程式が得られます。

 \partial_0 z^0 = -p z^1,\,\,\,\,\partial_0 z^1 = pz^0

原点における初期条件を考慮すると、次の解が得られます。

  z^0 = \cos(px_0),\,\,\,\,z^1 = \sin(px_0)

つまり、接ベクトル Z は、0軸方向にすすむと角速度 p で反時計回り方向に回転していくのです。W についても同様の成分計算をしても構いませんが、計量が保存されることを考えると、W も同様の回転をすることがわかります。なかなかユニークな平面です。

それでは同様に、1軸方向に平行移動するとどうなるでしょうか? 先ほどと同様の成分表示を用いて計算します。

 \partial_0 \rightarrow Z = z^0(0,x_1)\partial_0 + z^1(0, x_1)\partial_1

 \partial_1  \rightarrow W = w^0(0,x_1)\partial_0 + w^1(0, x_1)\partial_1

これを1軸方向の平行移動の条件 \nabla_0 Z = 0,\,\nabla_0 W = 0 に代入して、先と同様に Z から計算します。

 0 = \nabla_1 Z = (\partial_1 Z^l + Z^m\Gamma_{1m}^{\,\,\,l})\partial_l =(\partial_1 Z^l + Z^0\Gamma_{10}^{\,\,\,l}+Z^1\Gamma_{11}^{\,\,\,l})\partial_l
  =(\partial_1z^0+qz_1)\partial_0 + (\partial_1z^1-qz^0)\partial_1

 \partial_1 z^0 = -q z^1,\,\,\,\,\partial_1 z^1 = qz^0

したがって、初期条件を考慮して、次の解が得られます。

  z^0 = \cos(qx_1),\,\,\,\,z^1 = \sin(qx_1)

これより、接ベクトル Z は、1軸方向にすすむと角速度 q で反時計回り方向に回転することがわかります。計量が保存されることから、W も同様の回転を行います。

以上より一般に、この平面上では、0軸方向に進むと角速度 p、1軸方向に進むと角速度 q で回転するような「捩れ」が存在することがわかります。

この時、計量ベクトルと接続係数は座標に依存しない定数ですので、原点以外のどの点から出発しても同様になる点に注意してください。これは、適当な長方形にそって一周回った場合、行きと帰りで回転方向が反対になることから、元の接ベクトルに戻ることを意味しています。つまり、この平面は、捩率だけが存在して、曲率は0になっているのです。「ほんまかいな」と思う方は、曲率テンソルを成分計算すると、すべて0になることが確認できるはずです。

捩れ具合をベクトル場であらわすとこんな感じでしょうかね。


参考資料

曲率と捩率の直感的解釈を厳密に計算で示した例がありました。
情報幾何ゼミ Torsion に関する補足(PDF)