上記の記事では、ベクトル空間を例にして圏論の随伴関係の例を示しました。
まず、同様の構成を可換モノイドについて行います。
可換モノイドの定義
可換モノイド は、結合則
を満たす可換演算
と単位元
が存在する集合です。自然数
に対して、
(
個の
の足し算)と定義します。
自由可換モノイド
可換モノイドの例として、集合 から構成される自由可換モノイド
があります。
具体的には、 個の要素からなる集合
に対して、それぞれの要素に自然数
を割り当てたタプル
の集合を考えます。
( が無限集合の場合は、タプル内の 0 以外の要素は有限個であるとします。)
この集合に演算 を下記で導入したものが自由可換モノイド
です。
の「基底要素」を
(
番目の要素のみ 1)で定義すると、
の任意の要素
は、基底要素の「線型結合」で書けることになります。
可換モノイドの随伴関係
可換モノイド に対して、自由可換モノイド
からの準同型写像
があるとします。
この時、 に対して、
が準同型写像であることから次が成り立ちます。
--- (1)
つまり、準同型写像 は基底要素の像
で決まります。
逆に、基底要素の像として、 の要素を任意に割り当てると、(1) は準同型写像
を定めます。準同型であることは、次の計算で確認できます。
に対して、
したがって、 から
への準同型写像全体
と
から
への写像全体
には、1 対 1 の関係が成り立ちます。
ここに、 は
から可換モノイドとしての演算を忘れて、単なる集合とみなしたものを表します。
( が無限集合の場合は、
は、「
の単位元以外への像を持つ
の要素は有限個」という制約がつきます。)
素因数分解の一意性
0 を除く自然数全体 は、乗法を可換演算とする可換モノイドになります。
そこで、素数全体の集合を として、先の議論で
の場合を考えると、
となります。
ここで、 の「基底要素」を
とすると、
に対して、
( での演算は積であることに注意して)次が成り立ちます。
そこで、 として、包含写像
を採用すると、素因数分解の一意性より、
は、
と
の同型写像を与えます。
また、同型写像に限定しない一般の については、基底要素の像を
として任意に与えることで決まりますが、素因数分解の一意性から、次の全単射が成り立ちます。
つまり、次の同型関係が成り立ちます。
ここで、 に含まれる写像には、「0 以外の値を取る要素は有限個」という制限が付いている点に注意してください。仮にこの制限がないとすると、「可算無限集合から可算無限集合への写像全体は非可算無限集合になる」という有名な事実(カントールの対角線論法で証明されるやつ)から、
が成り立つことはありません。
可換群と可換モノイドの随伴関係
続いて、可換群と可換モノイドの随伴関係を示します。
まず、任意の可換モノイド は、可換群
に拡張できます。
具体的には、直積 に
で同値関係を導入して、商集合
を考えます。これに、
で積を導入すると、これは可換群になります。
と表記するとわかりやすいでしょう。
から構成された可換群
を
と表すことにすると、任意の可換群
に対して、次の関係が成り立ちます。
ここに、 は可換群
を可換モノイドとみなしたものを表します。(可換群は可換モノイドでもある点に注意。)
具体的には、 に対して、
を
と定義して、逆に、
に対して、
を
と定義すると、1 対 1 の関係を与えることがわかります。
なお、 とすると、「可換モノイドの随伴関係」の結果とあわせて、次が得られます。
つまり、可換群と集合の間にも随伴関係が成り立ちます。