めもめも

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ガロア理論のメモ(その1):体の拡大

※ 2017/09/27 追記

本シリーズの内容は、筆者の学習ノートレベルのもので、個々の証明には不正確な部分が多々あります。これらをより正確なものに加筆・修正して大幅に説明を書き加えたものを同人誌として、技術書典3で配布する予定です。

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拡大体の次数

E と体 F が包含関係 E \supset F を満たす時、 EF の拡大体であるという。この関係を E/F と表す。

この時、E は係数 F 上のベクトル空間になっている。(たとえば、E の任意の元 \alpha_1, \alpha_2F の任意の元 a_1, a_2 について、a_1\alpha_1+a_2\alpha_2 \in E となる。その他のベクトル空間の公理を満たすことも簡単に確認できる。)

したがって、(ベクトル空間の性質より)F 上のベクトル空間 E の次元が一意に定まる。これを「拡大の次数」と呼び、[E:F] で表す。


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{\mathbf Q}(\sqrt{2}) = \{a+b\sqrt{2} \mid a, b\in {\mathbf Q}\} は、{\mathbf Q} の拡大体になっており、[{\mathbf Q}(\sqrt{2}):\mathbf{Q}]=2
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本シリーズでは、拡大の次数が有限であるもののみを扱う。さらに、すべての体は有理数体 {\mathbf Q} を含むものと仮定する。これにより、任意の n について、1の原始 n 乗根の存在が保証される。(体の標数の理論を参照。一般の体における状況は こちら を参照。)

代数拡大

拡大体 E の元 \alphaF を係数とする n 次多項式 f(X) の解である時(つまり f(\alpha)=0 となる時)、\alpha は「F 上で代数的である」という。

定理1.1
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[E:F]<\infty の時、E のすべての元は F 上で代数的である。(このような時、EF の代数拡大であるという。)

(証明)
[E:F]=n とすると、任意の \alpha \in E に対して、n+1 個の元 \{1,\alpha,\cdots,\alpha^n\} はベクトルとして一次従属になる。

したがって、a_n\alpha^n + a_{n-1}\alpha^{n-1}+\cdots+a_0 = 0 となる F 上の係数 \{a_0,\cdots,a_n\} が存在する。

これは、f(X) = a_nX^n + a_{n-1}X^{n-1}+\cdots+a_0 として、f(\alpha) = 0 を意味するので、\alphaF 上で代数的である。
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F の拡大体 E の中に代数的な元 \alpha が存在した場合、f(\alpha) = 0 を満たす多項式 f(X) は複数存在するが、その中で最小次元の規約多項式を最小多項式とよび、{\rm Irr}(\alpha, F) と表す。(最大次数項の係数は1とする。)

系1.1
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有限次元拡大 E/F においては、任意の元 \alpha \in F について、最小多項式 {\rm Irr}(\alpha, F) が存在する。

(証明)
定理1.1より自明。
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なお、最小多項式の一意性は次のように確認できる。f(X), g(X) が共に最小多項式の条件を満たす場合、r(X) = f(X) - g(X) は、r(\alpha) = 0 となるが、f(X), g(X) より次数が低いため r(X) は恒等的に 0 でなければならない。

定理1.2
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F の拡大体 E において、\alpha \in E を代数的な元として、{\rm Irr}(\alpha, F) の次数を n とする。この時、次が成立する。

(1) F[\alpha] = \{a_0+a_1\alpha+\cdots+a_{n-1}\alpha^{n-1}\mid a_0,\cdots,a_{n-1}\in F\} は、F の拡大体となる。このように定義される体を F(\alpha) と表す。

F[\alpha] の元の積を計算する際は、p(X) = {\rm Irr}(\alpha, F) として、p(\alpha)=0 の条件から、n 次以上の項は n-1 次以下に書き直す。

(2) [F(\alpha):F] = n

(3) F(\alpha)F の代数拡大となる。

(証明)

(1) 任意の z \in F[\alpha] に対して、積の逆元が存在することが示せればよい(その他の体の公理を満たすことは自明)。

Xn-1 次以下の多項式の集合を F[X] として、g(X) \in F[X] z = g(\alpha) となる多項式とする。g(X) の次数は f(X) の次数より小さくて、f(x) は規約なので、f(X)g(X) の最大公約数は 1 となり、ユークリッドの互除法より、次を満たす多項式 a(X), b(X) \in F(X) が存在する。

f(X)a(X)+g(X)b(X)=1

これに、X=\alpha を代入すると、g(\alpha)b(\alpha) = 1 となるので、b(\alpha)z の逆元となる。

(2) n 個の元 \{1,\alpha,\cdots,\alpha^{n-1}\}F(\alpha) の基底となることを示す。

F(\alpha) の定義より、任意の元がこれらの一次結合で書けることは自明。

次に、これらが一次独立ではないと仮定すると、a_0 + a_1 \alpha + \cdots + a_{n-1}\alpha^{n-1} = 0 となる係数 \{a_0,\cdots,a_{n-1}\}\subset F が存在するが、これは、n-1 以下の次数の多項式 g(X) = a_0 + a_1 X + \cdots + a_{n-1}X^{n-1}g(\alpha) = 0 を満たすことになり、f(X) が最小多項式であることに矛盾する。したがって、これら n 個の元は一次独立である。

(3) (2)の結果を定理1.1に適用する。
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(1) 先ほどの例に出たきた {\mathbf Q}(\sqrt{2}) = \{a+b\sqrt{2} \mid a, b\in {\mathbf Q}\} が体になることは、定理1.2によって保証される。

(2) 体の拡大 {\mathbf R}/{\mathbf Q} において、\sqrt[3]{2} は3次の最小多項式 X^3-2 を持つ代数的な元である。したがって、拡大体 {\mathbf Q}(\sqrt[3]{2}) における拡大の次数は、[{\mathbf Q}({\sqrt[3]{2}}):{\mathbf Q}]=3 となる。より具体的には、

 {\mathbf Q}(\sqrt[3]{2}) = \{a+b\sqrt[3]{2}+c\sqrt[3]{2}^2\mid a,b,c\in {\mathbf Q}\}

と書ける。

(3) 体の拡大 {\mathbf C}/{\mathbf R} において、1の複素三乗根を \omega とすると、この最小多項式は X^2+X+1 となる(X^3-1 ではない)。したがって、拡大体 {\mathbf R}(\omega) の拡大の次数は2になる。

 {\mathbf R}(\omega) = \{a+b\omega\mid a,b\in {\mathbf R}\}
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以上の結果より、次の事実がわかる。

有理数 {\mathbf Q} を係数とする n 次の規約多項式の解 \alpha は、一般には有理数にはならないが、これを加えて構成した集合:

 {\mathbf Q}[\alpha] = \{a_0+a_1\alpha+\cdots+a_{n-1}\alpha^{n-1}\mid a_0,\cdots,a_{n-1}\in {\mathbf Q}\}

は、新たな拡大体 {\mathbf Q}(\alpha) となり、拡大の次数は、[{\mathbf Q}(\alpha):{\mathbf Q}]=n となる。


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有理数体 {\mathbf Q} を2段階で拡大してみる。

まず、有理数係数の2次方程式 X^2 - 2 = 0 の解の1つ X=\sqrt{2} を付加して、拡大体 {\mathbf Q}(\sqrt{2}) \supset {\mathbf Q} を構成する。

続いて、{\mathbf Q}(\sqrt{2}) を係数とする2次方程式 X^2 - 3 = 0 の解の1つ X=\sqrt{3} を付加して、拡大体 {\mathbf Q}(\sqrt{2},\sqrt{3}) \supset {\mathbf Q}(\sqrt{2}) を構成する。この拡大体の元は、次のように表される。

 {\mathbf Q}(\sqrt{2},\sqrt{3}) = \{a+b\sqrt{3} \mid a,b\in {\mathbf Q}(\sqrt{2})\} = \{a+b\sqrt{2}+c\sqrt{3}+d\sqrt{6} \mid a,b,c,d \in {\mathbf Q}\}

最後の表式より、[{\mathbf Q}(\sqrt{2},\sqrt{3}):{\mathbf Q}]=4 となっており、次の関係が成立していることがわかる。

 [{\mathbf Q}(\sqrt{2},\sqrt{3}):{\mathbf Q}]=[{\mathbf Q}(\sqrt{2},\sqrt{3}):{\mathbf Q}(\sqrt{2})][{\mathbf Q}(\sqrt{2}):{\mathbf Q}]
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2段階の拡大における拡大の次数は、一般に次の関係を満たす。

定理1.3
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2段階の(有限次元の)体の拡大 E \supset M \supset F において、[E:F] = [E:M][M:F] が成立する。

(証明)
[E:M]=m として、EM 上の基底を \{\alpha_1,\cdots,\alpha_m\} とする。

同じく、[M:F]=n として、MF 上の基底を \{\beta_1,\cdots,\beta_n\} とする。

この時、任意の x \in E について、x = \sum_i a_i\alpha_ia_i \in M)と書けて、さらに係数 a_i \in M について、a_i = \sum_j a_{ij}\beta_ja_{ij}\in F)と書ける。したがって、x=\sum_{ij}a_{ij}\alpha_i\beta_j となり、\{\alpha_i\beta_j \mid 1\le i \le m, 1\le j \le n\}F 上のベクトル空間 E を張る。

これらが一次独立であれば、F 上のベクトル空間 E の基底であることになり、定理が証明される。

そこで、\sum_{ij}a_{ij}\alpha_i\beta_j=0a_{ij}\in F)と仮定すると、a_i = \sum_j a_{ij}\beta_j \in M として、\sum_i a_i\alpha_i = 0 が成り立つので、\{\alpha_i\} が基底であることから、a_i = 0 となる。これは、a_i の定義より、\sum_ja_{ij}\beta_j = 0 を意味するが、\{\beta_j\} が基底であることから、a_{ij}=0 が得られる。これで、一次独立であることが示された。
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