めもめも

このブログに記載の内容は個人の見解であり、必ずしも所属組織の立場、戦略、意見を代表するものではありません。

ガロア理論のメモ(その4):ガロア理論の基本定理 (2)

※ 2017/09/27 追記

本シリーズの内容は、筆者の学習ノートレベルのもので、個々の証明には不正確な部分が多々あります。これらをより正確なものに加筆・修正して大幅に説明を書き加えたものを同人誌として、技術書典3で配布する予定です。

techbookfest.org

電子版をこちらで販売しています。

ebook2.dlmarket.jp

中間拡大がガロア拡大になる条件

ガロア理論の基本定理(定理3.3)により、ガロア拡大の中間体 E\supset M\supset E^G において、E/M はガロア拡大になることが示された。一方、拡大 M/E^G の部分がガロア拡大になるには、いくつかの同値な条件が存在する。ここでは、これらの条件を示す。

準備として、いくつかの補題を示す。

まず、補題3.1において、M から E への準同型写像の集合 S = \{ \sigma|_M \mid \sigma \in G\} を考えた。E^G を固定する M から E への準同型写像全体を {\rm Hom}_{E^G}(M,E) と表すと、一般には、S \subseteq {\rm Hom}_{E^G}(M,E) であるが、これらは一致することが示される。

補題4.1
――――――――――
ガロア拡大の中間体 E\supset M\supset E^G において、S = \{ \sigma|_M \mid \sigma \in G\}として、次の関係が成立する。

 S={\rm Hom}_{E^G}(M,E)

 \left|S\right| = \left|{\rm Hom}_{E^G}(M,E)\right| = [M:E^G]

(証明)
定理3.3の証明において、定理3.2を用いて(2)を導いた部分をより細かく書くと、次のようになる。

 \left|S\right| \le \left|{\rm Hom}_{E^G}(M,E)\right| \le [M:E^G] \le [E^{{\rm Aut}(E/M)}:E^G] ――― (2)'

1つめの不等式は S \subseteq {\rm Hom}_{E^G}(M,E) から得られるもので、2つ目の不等式が定理3.2から得られるものになる。定理3.3の証明において、(2)の代わりにこの(2)'を(1)(3)と合わせると、\left|S\right| = \left|{\rm Hom}_{E^G}(M,E)\right| = [M:E^G] が得られる。この前半の等式より、S={\rm Hom}_{E^G}(M,E) が成立する。
――――――――――

次の補題は、{\rm Aut}(E/M)G = {\rm Aut}(E/E^G) の正規部分群になりそうでならない気持ち(?)を表す。

補題4.2
――――――――――
ガロア拡大の中間体 E\supset M\supset E^GG={\rm Aut}(E/E^G))において、次の関係が成立する。

 \forall \sigma \in G;\,\, {\rm Aut}\left(E/\sigma(M)\right) = \sigma {\rm Aut}(E/M)\sigma^{-1}

(証明)
まず、任意の \sigma \in G に対して、\sigma(M) \supseteq E^G に注意すると、G \supset {\rm Aut}\left(E/\sigma(M)\right) となる。

そこで、ある \tau \in G{\rm Aut}\left(E/\sigma(M)\right) の元になる条件を考えてみると、

 \tau \in {\rm Aut}\left(E/\sigma(M)\right) \iff \forall x \in M;\,\,\tau\circ\sigma(x)=\sigma(x)

  \iff \forall x\in M;\,\, \sigma^{-1}\circ\tau\circ\sigma(x) = x

  \iff \sigma^{-1}\circ\tau\circ\sigma \in {\rm Aut}(E/M)

  \iff \tau \in \sigma{\rm Aut}(E/M)\sigma^{-1}
――――――――――

それでは主題の条件を示す。

定理4.1
――――――――――
ガロア拡大の中間体 E\supset M\supset E^GG={\rm Aut}(E/E^G))において、次はすべて、M/E^G がガロア拡大である事と同値になる。

(1) {\rm Aut}(E/M) は、G の正規部分群である。

(2) \forall \sigma \in G;\,\,\sigma(M)=M

(3) {\rm Aut}(M/E^G) = {\rm Hom}_{E^G}(M, E)=\{\sigma|_M\mid \sigma\in G\}

(証明)
補題4.1より、(3)は、次の(3')と同値であるので、これ以降は、(3)の代わりに(3')を使用する。

(3') S = {\rm Aut}(M/E^G)S=\{\sigma|_M\mid \sigma\in G\}

・(3')⇒ M/E^G がガロア拡大
(3')が成り立つ時、\tau \in {\rm Aut}(M/E^G)、および、x\in M\subset E に対して、次の関係が成立する。

 \tau(x) = x \iff \sigma(x) = x \iff x \in E^G

一般に、M の元で、{\rm Aut}(M/E^G) で不動なものは、M^{{\rm Aut}(M/E^G)} \supseteq E^G という関係を満たすが、上記より、これらは一致することが分かる。

 M^{{\rm Aut}(M/E^G)} = E^G

定理2.4より、これは拡大 M/E^G がガロア拡大である事を示す。

M/E^G がガロア拡大⇒(3')
M/E^G がガロア拡大であれば、定理2.3より [M:E^G]=|{\rm Aut}(M/E^G)| が成立するので、補題4.1と合わせて、次が成立する。

 |S| = |{\rm Aut}(M/E^G)|

一般に、S \subseteq {\rm Aut}(M/E^G) であることから、上記は、S= {\rm Aut}(M/E^G) となることを示す。

・(3')⇒(2)
(3')は、任意の \sigma \in G について、定義域を M に制限したものが M の自己同型写像であることを示しており、\sigma(M)=M が成立する。

・(2)⇒(3')
補題4.1より、一般に、S={\rm Hom}_{E^G}(M,E) \supseteq {\rm Aut}(M/E^G) である。一方、(2)は、\sigma \in G の定義域を M に制限したものが M の自己同型写像であることを示しているので、\sigma|_M \in {\rm Aut}(M/E^G) が成立して、S \subseteq {\rm Aut}(M/E^G) となる。これらより、(3')が成立する。

・(2)⇒(1)
(2)が成立する時、補題4.2より次が成立する。

 \forall \sigma \in G;\,\,{\rm Aut}(E/M) = \sigma {\rm Aut}(E/M)\sigma^{-1}

したがって、{\rm Aut}(E/M) は、G の正規部分群である。(正規部分群の定義)

・(1)⇒(2)
{\rm Aut}(E/M)G の正規部分群であるとすると、補題4.2より次が成立する。

 \forall \sigma \in G;\,\,{\rm Aut}\left((E/\sigma(M)\right) = {\rm Aut}(E/M)

一方、E \supset M \supset E^G、および、E \supset \sigma(M) \supset E^G の事実より、定理3.3より、E/ME/\sigma(M) はどちらもガロア拡大であり、E^{{\rm Aut}(E/M)}=M、および、E^{{\rm Aut}\left((E/\sigma(M)\right)}=\sigma(M) が成立する。上記の関係をこれらに代入すると、M=\sigma(M) が得られる。
――――――――――


――――――――――
拡大 {\mathbf Q}(\sqrt{2},\sqrt{3})/{\mathbf Q} はガロア拡大であり、ガロア群は、次の4つの操作を元とするクラインの4元群であった。

1\sqrt{2} \rightarrow \sqrt{2}, \sqrt{3} \rightarrow \sqrt{3}(どちらも入れ替えない。)
\phi_1\sqrt{2} \rightarrow -\sqrt{2}, \sqrt{3} \rightarrow \sqrt{3}\sqrt{2}だけ入れ替える。)
\phi_2\sqrt{2} \rightarrow \sqrt{2}, \sqrt{3} \rightarrow -\sqrt{3}\sqrt{3}だけ入れ替える。)
\phi_3\sqrt{2} \rightarrow -\sqrt{2}, \sqrt{3} \rightarrow -\sqrt{3}(両方入れ替える。)

この時、中間体 {\mathbf Q}(\sqrt{2},\sqrt{3}) \supset {\mathbf Q}(\sqrt{2}) \supset {\mathbf Q} を考えると、拡大 {\mathbf Q}(\sqrt{2})/{\mathbf Q} もガロア拡大であった。したがって、定理4.1の(1)〜(3)が成立していることになる。

たとえば、{\rm Aut}\left({\mathbf Q}(\sqrt{2},\sqrt{3})/{\mathbf Q}(\sqrt{2})\right) は、次の2つの元からなる2次の対称群である。

1\sqrt{2} \rightarrow \sqrt{2}, \sqrt{3} \rightarrow \sqrt{3}(どちらも入れ替えない。)
\phi_2\sqrt{2} \rightarrow \sqrt{2}, \sqrt{3} \rightarrow -\sqrt{3}\sqrt{3}だけ入れ替える。)

2次の対称群がクラインの4元群の正規部分群であることは、直接の計算ですぐに確認できる。
――――――――――

可解群の定義

定理4.2
――――――――――
ガロア拡大の中間体 E\supset M\supset F において、M/F がガロア拡大であるとき、次の群同型が成立する。

 {\rm Aut}(E/F)\,/\,{\rm Aut}(E/M) \cong {\rm Aut}(M/F)

(証明)
定理4.1(2)より、次の準同型写像 \varphi が定義できる。

 {\rm Aut}(E/F)\rightarrow{\rm Aut}(M/F)\sigma \mapsto \sigma|_M

この時、\sigma|_M = id\,\Leftrightarrow\sigma\in {\rm Aut}(E/M) より、{\rm Ker}\,\varphi = {\rm Aut}(E/M) となり、群の準同型定理より、表題の群同型が成立する。
――――――――――

ガロア理論における「代数方程式の可解性」においては、上記の {\rm Aut}(M/F) がアーベル群(積が可換な群)になる場合が重要となる。これを念頭において、可解群を次のように定義する。

定義4.1
――――――――――
G が以下の(1)〜(3)の条件を満たす時、これを可解群と呼ぶ

 (1) 有限個の部分群の列 G=G_0 \supset G_1 \supset \cdots \supset G_r = \{1\} を持つ。

 (2) 隣り合う部分群がすべて正規部分群になっている。つまり、G_{i}G_{i-1} の正規部分群(i=1,\cdots,r)。

 (3) 商群 G_0/G_1,G_1/G_2,\cdots,G_{r-1}/G_r はすべてアーベル群。
――――――――――

可解群について、次の2つの定理が成り立つ。

定理4.3
――――――――――
G が正規部分群 N を持つ時、G が可解群であれば、G/N も可解群になる。

(証明)
fG から G/N への全射準同型写像とする。G が可解群であることから、正規部分群の列

 G = G_0 \supset G_1 \supset\cdots\supset G_k = \{1\}

が存在して、隣り合う群の商群がアーベル群となる。ここで、f の準同型性より、f(G_{i+1})f(G_i) の正規部分群となることがわかり、正規部分群の列

 G/N = f(G_0) \supset f(G_1) \supset\cdots\supset f(G_k) = \{1\}

が構成できる。この時、隣り合う群の商群に対して、全射準同型写像 {\overline f}\,:\,G_{i}/G_{i+1} \rightarrow f(G_{i})/f(G_{i+1}) が次のように定義できる。

 gG_{i+1} \mapsto f(g)f(G_{i+1})

G_{i}/G_{i+1} がアーベル群であることから、上記の準同型写像により、f(G_{i})/f(G_{i+1}) もアーベル群となることがわかる。
――――――――――

定理4.4
――――――――――
G の正規部分群 N において、NG/N がどちらも可解群であれば、G も可解群になる。

(証明)
G/N の部分群 G' があった時、H = \{ h \in G \mid hN \in G' \} とすると、HG の部分群で、G' \cong H/N となる。(たとえば、h_1,h_2\in H の時、h_1N=Nh_1, h_2N=Nh_2 より h_1h_2N=Nh_1h_2 となり、h_1h_2\in H となる。その他の条件も自明に確認できる。)

さらに、G/N の部分群 G' \cong H/N が正規部分群の場合、HG の正規部分群となり、群の同型定理が適用できて、

 (G/N)/(H/N) \cong G/H ――― (1)

が成立する。(HG の正規部分群であることは、次のように確認できる。仮定より、任意の g \in G, h \in H に対して、{\overline g}{\overline h} = {\overline h'}{\overline g} となる h'\in H が存在する。ここに、オーバーラインは G/N および H/N としての同値類を表す。そして、同値類の意味から、gh = n_1h'n_2g となる n_1,n_2\in N が存在する。さらに、n_1h'n_2 = h'' となる h'' が存在するので、結局、gh=h''g が成立する。)

いま、G/N が可解群ということなので、部分群の列

 G/N = G_0/N \supset G_1/N \supset\cdots\supset G_k/N = N/N = \{1\}

が存在して、隣り合う部分群は正規部分群、かつ、商群はアーベル群となる。ここで、隣り合う G_i/N \supset G_{i+1}/N に対して、(1)を導いた議論を適用すると、G_{i+1}G_i の正規部分群で、(G_i/N)/(G_{i+1}/N) \cong G_i/G_{i+1} はアーベル群となる。つまり、部分群の列

 G=G_0 \supset G_1 \supset\cdots\supset N ――― (2)

が存在して、隣り合う部分群は正規部分群、かつ、商群はアーベル群となる。

さらに、N が可解群であるから、同様の部分群の列

 N = N_0\supset N_1\cdots\supset \{1\} ――― (3)

が存在する。(2)と(3)をつなげることで、G は可解群の条件を満たす。
――――――――――